どんな人間になりたいのか。

max's Ebisu

今シーズンより、max’s EbisuではDECHAMPSの取り扱いを始めます。

このブランドについて何を書こうか、ずっと考えていました。

ブランドの歴史やデザイナーの経歴、生地のことだったり、パリのアトリエのことなど、書きたいことはいくらでもあります。

でも、それだけでは僕がDECHAMPSを好きになった理由も、max’s Ebisuで取り扱う意味も伝えきれない気がしました。

なので、最近僕自身が考えていることから書こうと思います。

洋服の仕事をしていると、
「どんな洋服が好きですか?」
と聞かれることがあります。

僕には、その答えが一つではありません。

フランスの洋服も、アメリカの洋服も好き。
パリも好きだし、ロンドンのカルチャーにも惹かれる。

美しく仕立てられたジャケットにも惹かれるし、長い時間を経てクタクタになったヴィンテージにも惹かれる。

昨日まで知らなかったものを見て、今日からそれが好きになることもあります。

以前は、それらを一つの言葉にまとめて「これが自分のスタイルです」と言えるものを探していました。

でも最近は、その時々に何を美しいと思い、何に心が動いたのかを積み重ねることが、その人のスタイルになるんじゃないかと思っています。

そして洋服について考えているはずなのに、最後にはいつも同じところへ辿り着きます。

「どんな人間になりたいのか。」

僕は、色気のある大人になりたいと思っています。

ここでいう色気は、単純な艶っぽさのことではありません。

どれだけ美しいジャケットを着ても、良い靴を履いても、それだけでその人自身まで魅力的になるわけではない。

何を選んで、どのようにコーディネートして、洋服をどう扱い、人とどう向き合い、接するのか。
何に興味を持って、何に心を動かされているのか。

そういうものが少しずつ滲み出て、その人にしかない色気になるんじゃないかと思っています。

洋服は自分を取り繕うためのものではなく、
自分がどんな人間でありたいのかを表現する、一つの方法なんじゃないか。

最近、そんなことを考えています。

僕は決して言葉で自分を表現するのが得意な人間ではありません。

でも、幸い僕の生業は洋服です。

店に何を置いて、何と何を合わせるのか、どのように提案するのか、僕自身が何を着るのか。

それを通して、自分の考えていることを表現していきたい。

そして、その考えをmax’s Ebisuという店にも反映していきたいと思っています。

そんな中で出会ったのが、DECHAMPSでした。

DECHAMPSを手掛けるのは、Camil KringsとMirja Celine Hansen。

二人はベルリンのAtelier Chardon Savardで、それぞれテーラリングとレザーグッズを学びました。

その後カミルはエディ・スリマンのもとCELINEでテーラードウェアやアウターウェアに携わり、
ミリアに関してはまたレザーを仕入れた時にご紹介します。

ラグジュアリーの現場を知る二人が、自分たちのブランドで選んだのは、大きな生産背景に頼ることではありませんでした。

多くの製品は、パリに構える自分たちのアトリエで作られています。
生地も、ボタンも、付属も、自分たちで見て、触って、選ぶ。

効率よりも、自分たちの目と手が届く範囲でものを作ること。
培ってきた技術を、自分たちが信じる洋服のために使う。

そんな二人です。

初めて彼らのアトリエを訪れた日のことを、今でもよく覚えています。

パリの暑い日でした。

アトリエの前で、日本のエージェントである吉原さんと初めてお会いし、一緒に中へ。

そこにはデザイナーの二人と、通訳のエマさんが待っていました。

日本から持っていったのは、冷たくしても温かくしても飲める緑茶のティーバッグ。

渡すとすぐに淹れて飲んでくれました。

僕もコーラとお菓子をいただき、外の暑さから逃れるように少し涼ませてもらいました。

そんな僕にも、彼らは驚くほど気さくに接してくれました。

聞けば何でも教えてくれるし、冗談も言って、よく笑う。
それでいて、ものづくりの話になると、とことん深い。

知識や経歴を前に出すのではなく、自然体で人と接する。
でも、話せば話すほど、その奥にあるものの深さが見えてくる。

こういうところにも、僕はすごく惹かれました。

DECHAMPSというブランドの後ろには、とても長い時間があります。

ブランド名は、Camilの家族がかつて営んでいた織物工場に由来します。

その歴史は1872年まで遡ります。
アトリエでは、1890年代頃から残されている当時の生地ブックを見せてもらいました。

100年以上前の生地です。

ページを捲り、色や柄、織りを見ると驚くほど面白いし、本当は全部見たかった。

でも、全部見ていたらその日のアポイントがそれだけで終わってしまうので、後ろ髪を引かれながら、少しだけ。

100年以上前に存在したものを、単なる資料として保存するのではなく、
今の自分たちの感覚で見て、考え、新しい洋服へ繋げていく。

昔作られた生地を大切にしながら、その生地をそのまま再現するわけでもなく、懐古的な洋服に落とし込むわけでもない。
こんな生地に、このアイテムを載せてみよう。
過去を大切にしながら、過去に答えを求めない。

僕がDECHAMPSに惹かれる理由の一つです。

そして、僕には彼らにどうしても聞いてみたいことがありました。

「もっとエレガントな人間になるには、どうすればいい?」

すると、
「君はもうエレガントだよ。」
と言って、僕の足元を見て、
「その靴も、とても良いね。」

その日は、出発前に磨いて持っていったヒールブーツを履いていました。

ちゃんと磨いてきて良かった。
僕が作ったわけでもないので、自分の功績なんて何一つありませんが、素直に嬉しかったです。

でも、もっと聞きたい。

そう伝えると、話は洋服から少しずつ広がっていきました。

どんな生地を選び、どんなシルエットを選ぶのか。
例えばレザーバッグなら、その革に手入れが必要なのかを知っているか。
必要なら、ちゃんと手入れをしているのか。
姿勢や所作、振る舞いはどうなのか。

僕は洋服について質問したつもりでした。

でも返ってきたのは、
「何を持っているか」ではなく、「それとどう付き合っているのか」。
という話でした。

その時、僕が考えていた「色気」というものも、少し分かった気がしました。

完璧に整っていることではなくて、良いものを知っていることだけでもない。
何を選び、どう付き合い、どう振る舞うのか。そこに、その人自身が滲んでいること。

僕は、そういう人に色気を感じるのかもしれません。

とはいえ、僕自身は前職の上司に革靴を手入れしなさすぎて怒られたことがあるくらいにはズボラです。笑

それ以来、ちゃんと手入れするようにはなりましたが、到底彼らのような自然な品のある色気を持ち合わせているわけではありません。

なので僕は、もう少し粗野な色気を目指したいですね。笑

そしてそれは、最初に書いた「どんな人間になりたいのか。」ということとも、一本に繋がりました。

そして、いよいよ洋服を見せてもらいます。

僕は、「全部着たいです。」と伝えました。
二人は笑いながらOKしてくれました。

一着ずつ袖を通し、生地やサイズ、シルエットを見て、なぜこう作ったのかを聞く。
もちろん、どれも格好いいし、着れば着るほど面白くなっていきました。

さっきまでコーラを飲んで涼んでいたはずなのに、また身体が熱くなっていく。

生地はもちろん素晴らしいし、仕立ても美しいと思います。

でも、実際に袖を通して一番強く感じたのは、DECHAMPSは「引き算」の洋服なんじゃないかということでした。

何か分かりやすいデザインを足して、洋服そのものを強く見せるのではない。

線を整え、余計なものを削り、生地を活かす。
着た時に、その人がちゃんと残り、
静かなのに、鏡の前に立つと妙に気になって、もう一度見たくなる。

「これ、着ていったらもっと格好よくなるだろうな。」と思いました。

新品の状態が完成形ではなく、
着て、皺が入って、身体に馴染んで、持ち主の癖や時間が加わっていく。

その先まで想像したくなる洋服でした。

100年以上前から残るアーカイブを持ちながら、それをそのまま復刻するわけではない。

だからDECHAMPSには歴史を感じるのに、懐古的ではない。

クラシックだけれど古くないし、エレガントだけれど堅苦しくない。
整っていて静かなのに妙に色気がある。

DECHAMPSの洋服そのものが、どこか彼ら自身にも似ている。

服だけで完成させてしまわず、着る人間が入る余白を残している。

僕がmax’s Ebisuで表現したいものと、とても自然に重なりました。

生きていく中で、彼らのような人たちに出会い、アトリエへ行き、100年以上前の生地を見せてもらい、洋服だけでなく生き方についてまで話を聞く。

そんな経験は、そう何度もあることではないと思います。

だからこそ、僕だけがこの経験を持って帰って終わりにはしたくありません。

彼らの作る洋服を通して、僕がパリで感じたものをmax’s Ebisuで伝えたい。

古いアメリカの洋服や、フランスで今作られている洋服、美しい革靴だったりロンドンのテーラリング、そして少しのロックやアート。

国や年代で分けるのではなく、一人の人間のスタイルとして混ぜていく。

粗野なものには、少し品を。

綺麗なものには、少し崩しを。

クラシックなものには、今の空気を。

洋服だけが先に立つのではなく、着る人の人柄まで見えてくる。

そんな、少し色気のあるスタイルをmax’s Ebisuで作っていきたいと思っています。

僕自身も、これからたくさんのものを見て、たくさんの人に出会って、好きなものを増やしていきたい。

今季、max’s Ebisuでご紹介するDECHAMPSのテーマは、
“HUNTING PINK”
です。

この言葉が何を意味するのか。
そして、それがどのように洋服へ落とし込まれているのか。

ここで全部説明してしまうのは、少し勿体ないと思いますので、コレクションの背景を知りたい方は、ぜひ店頭でお話しさせてください。

今シーズンより始まるDECHAMPS。

僕自身、とても楽しみです。

上田 剛右