最初に穿いた時、鏡の前で少し止まりました。
何かがおかしい、という意味ではなく、いつもの自分とちょっと違って見える。
太いとか、細いとか、ストレートとか、フレアとか。
そういう話だけでは、どうも説明できない。
何が違うんだろう。
BIBOJAについて書くなら、まずそこから考えてみようと思います。

BIBOJAは、ノルウェー・オスロを拠点にTibor Rosettiが手掛けるブランド。
Tiborはデザイナーであり、アートディレクターとしても活動する人物です。
既製のパンツを作る一方、オスロではMade-to-Orderのテーラリングも行っていて、ジャケットやトラウザーズのパターンは、ノルウェーに残る数少ないマスターテーラー2名と一緒に開発しています。
パンツ一本の話にしては随分と堅そうです。
なんだか背筋を伸ばして読まないといけないような気もしてきます。
が、そんな必要はありません。
僕が知りたいのは、もっと単純なことです。
なんでこのトラウザーズは、他と違って見えるのか。
まず、ウエストが高い。
かなり高いです。
腰骨に引っ掛けるのではなく、へその辺りまでグッと上げて、腰ではなくウエストで穿く。
最初は「ちょっと上げすぎたかな」くらいで合っています。
もちろん、ハイウエスト自体は珍しくありません。
昔からあるし、ビスポークの世界にもある。

もっと極端な例なら、1920年代に流行したOxford Bags。
これも高い位置で穿きますが、特徴はその下で、腿から裾まで大量の生地がドサッと落ちる。そのボリュームまで含めて、とにかく太いのがOxford Bagsです。
ハイウエストのトラウザーズには腰回りにもゆとりを持たせたものが多い中で、BIBOJAは高い位置まで引き上げながら、そのすぐ下をコンパクトに作っている。

ハイウエスト自体が新しいわけじゃない。その高い腰位置に対して、ヒップが小さい。
見たことがあるようで、なんか違う。
こういうバランスには、どうも目が止まります。

実際に穿くと、結構びっくりします。
胴が短く見えて、脚の始まりがグッと上がる。いつもの自分の脚なのに、始まる場所が違う。
単純に脚が長く見えるというより、身体全体のバランスそのものが少し変わって見える。
脚は、へそから。
ちょっと大袈裟なくらいですが、鏡を見ると結構そんな感じです。
生地の話も少し。
今回僕たちが選んだ中には、英国Brisbane Mossのベルベットがあります。
コーデュロイやモールスキン、ベルベットなどを長く手掛けてきた英国の生地メーカーです。

この黒いベルベット、止まって見ると深い黒なんですが、歩くと毛足が光を拾って鈍く光り、派手な柄はないのに、妙に目に入る。
こういう黒も好きです。
ただ、BIBOJAの生地を見渡すと、こういうクラシックなものばかりでもありません。
「こんなのもあるんだ」と思うような、見ているだけで楽しくなる色や柄もある。
今回僕たちが選んだものは比較的落ち着いていますが、そういう振れ幅まで含めてBIBOJAなんだと思います。
とはいえ、ハイウエストのトラウザーズを見ると、どうしてもクラシックな格好を連想します。
例えばEdward Sexton。
強い肩、絞ったウエスト、高い位置から始まるトラウザーズ。ジャケットからパンツまで含めて、身体の見え方を大胆に作るSavile Rowのテーラーです。
一方、Huntsmanは乗馬服の伝統を背景に持つSavile Rowの老舗。
スタイルは違いますが、高いウエストのトラウザーズがジャケットまで含めた全身のバランスの中で生きてくるところは面白い。
だからなのか、ハイウエストを見るとシャツを入れて、ジャケットを着て、革靴を履きたくなるし、もちろんそれは格好いい。
でも、僕がBIBOJAに惹かれたのは、その先でした。

これにブルゾンを合わせてみる。
すると、いつも着ているブルゾンまでちょっと違って見える。
じゃあ、あのTシャツやスウェットは。ジャケットやあの古いニットは。
そんなことを考え始めると、俄然楽しくなってきます。
新しい服を買ったわけでもないのに、クローゼットをもう一度ひっくり返したくなる。

パンツだけが、「今日、僕だけ正装です」みたいな顔をしないし、
無理して「ドレスパンツを着崩しています」という感じにもならない。
短い着丈を合わせれば、高い腰位置がより際立つ。もちろん、それだけが正解でもありません。
合わせるものによって、このトラウザーズの見え方も変わっていく。
パンツって、太いとか細いだけじゃない。
どの位置で穿くかでも、こんなに見え方が変わるんだなと思います。
ただ、BIBOJAは穿けば誰でも同じように見えるパンツではありません。
穿く位置は同じでも、その人の身体や合わせる服によって、格好よく見えるバランスは変わる。
だから、その人が普段着ている服の中で、BIBOJAが一番格好よく見えるところを探したい。
上を変えたり、靴を変えたり、ウエストを見せたり隠したり。
そうやって色々試していると、急に「あ、これだ」っていう瞬間が来る。
その時はたぶん、鏡の前でちょっとにやけます。
僕らが店にいるのは、そのバランスを皆さんと一緒に探すためでもあると思っています。
Tibor自身も、自分とはまったく違うスタイルの人がBIBOJAを選び、それぞれの着方にしてくれることを好意的に話しています。
BIBOJA自身がファッションとして楽しんでいるんだから、僕らもそれぞれの格好で楽しみたい。


L Pockets
Black Velvet


Slant Pockets
Brown Wool


Slant Pockets
Black Velvet
ただし、一つだけ。
へその位置までグッと上げる。
そこだけは、BIBOJAに付き合ってください。
あとは店頭で、一緒に考えましょう。
上田 剛右



