「履く」のではなく、「味わう」靴。

RANCOURT

ちょうど一年前くらいのこと。
東京にきたばかりの僕は、大都会に試されていました。

うだるような暑さ、道産子の僕には真夏と感じるほど。
しかし、まだ5月。

素足に履ける、でもサンダルではない靴はないかな…。
repettoはあるから、アメリカ靴でローファーじゃないのが良いよなぁ。
もっと雑多に履けて、いい意味でチープな感じの、でもクラシックでアメリカらしい靴。

なんて近谷と話していた記憶があります。

そんな記憶が脳裏に浮かんだのも、この靴が入荷してきたからでしょう。

– RANCOURT & CO. “Classic Ranger Moc”

真夏の陽射しの下でも、素足でふらりと履ける。
けれども、それはただの“軽快な一足”じゃない。
ランコートの靴は、アメリカの空気ごと足元にまとわせる、リアルなクラフトマンシップの結晶です。

舞台はアメリカ北東部、カナダ国境にほど近いメイン州。
大西洋に面し、深く広がる森林と無数の湖沼が織りなす湿潤な土地。
この自然豊かな環境が、防水性と機動力を兼ね備えたモカシン文化を育てました。
ハンティングやキャンプ、カヌーといった“暮らしに根ざしたアウトドア”が、靴を“道具”として進化させた場所。

そしてこの地は、あのL.L.Beanが生まれた土地でもあります。
そんなメイン州で1967年、Dave Rancourtが自身の名を冠して立ち上げたモカシン工房、それがRANCOURT & CO.のはじまりでした。

創業以来、親子三代に渡って続くファクトリー。
ただしランコートは“ファクトリー”である前に、“信念ある職人集団”です。

ランコートが守るもの、それは代々受け継がれてきた、伝統的な手作業。

アメリカでも数多くのモカシンメーカーが、コストを理由に海外生産へと舵を切っていった中で、ランコートは今も変わらず「MADE IN MAINE」にこだわり続けています。
それは単なる地産地消ではなく、土地の気候・文化・職人の技術が一体となって生まれるものづくりだからこそ。

一針ずつ革を引き締めながら縫い進める、ハンドソーン・モカシン製法。
2本の針を交互に引いていくその作業は、単に技術だけでは成り立ちません。
天気や湿度、革の状態、そして“その日その人の手の感覚”まで影響するという繊細な仕事。

だからこそ、1足ごとに微妙に表情が異なる。
それは不完全さではなく、“手作業による温もり”です。

Ranger Moc – 伝統と実用のちょうどいい接点。

クラシックな4アイレットと、ぽってりと愛くるしいシルエット。
フロントにはモカシンならではの存在感ある縫い目。
そして、裏地のないアンラインド、包み込まれるような一枚革のアッパーが足に柔らかく馴染む。
この「Ranger Moc」は、ランコートを語るうえで欠かせない定番中の定番。

今回はその王道モデルをセレクトしました。
足入れした瞬間に感じるのは、ふわりとした軽さと、レザーそのもののぬくもり。
まさに「裸足で履けるモカシン」です。

使用されているのは、ホーウィン社のクロムエクセルレザー。
たっぷりと油分を含んだタフな革は、多少の雨や湿気をものともしません。
足元に合わせたオリジナルのラバーソールも、濡れた街でも、芝の上でも、まるで気にせず歩ける安心感。
街でも自然の中でもしっかりと機能してくれます。

ショーツにも、リネンパンツにも、デニムにも。
真夏に素足で履いたって、不思議としっくり馴染む。
重厚さと軽快さを兼ね備えたこの靴は、「雑に履ける贅沢」を教えてくれます。

履けば履くほど、自分だけの味が出てくる。
でも、決して育てることを強要しない。
むしろ、“日常に勝手に馴染んでくる”、そんな懐の深さを持っている一足。

ランコートは、ただのクラフトブランドではありません。
ただ“履く”のではなく、年を重ねるとともに馴染んでくる変化を“味わう”事のできる靴。
そんな靴です。

上田